イギリスの空とスミノフアイスの思い出

渋谷のTSUTAYAでDVDを借りると、店員のお姉さんが、なにやらビンをくれた。新発売のアルコール飲料をサービス中とのこと。ビンのデザインを見て気づいた。なんだ。スミノフアイスじゃないか。
初めてスミノフアイスを飲んだのは、イギリスに友人と旅行に行ったときのことだった。現地に留学していた友人が私たちに、うまいから飲めよとスミノフアイスを勧めてきたのだ。
スミノフアイスを持って、3人で何とかという名所に言った。そこにある古い建物は、今でも分譲されているのだそうだ。その前には馬鹿でかい芝生の庭があり、カップルや家族連れがのんびりと寝転がっていた。
さて、飲もうかという段になって栓抜きが無いことに気がついた。アホだ。すると現地に住む友人が言った。「柵とか、壁とか。とにかく硬いものを使って、ふたをガンガンやれば取れるよ。いつもそうやってる。」
私は言われたとおりに、近くの鉄柵に行って、そこにふたの部分を打ち付けた。しかし、うまくいかない。苦戦する私の様子をどこからか眺めていたのだろう。イギリス人が私に近づいて来た。なにやら言っている。よくワカラン。自慢じゃないが英語のヒアリングはさっぱりなのだ。彼はスミノフアイスを持つと、それを斜めにして、柵にあわせた。角度が違うということか。私はそのイギリス人が言うとおりの角度で、もう一度やってみた。開いた。ビンから中身がこぼれだす。あわてて手に付いたスミノフアイスを舐める。イギリス人はそれを見て満足そうに笑った。私は言った。「サンキュー」

日が傾きかけていた。私は友人たちと芝生に寝転がり、くだらない話をしながら、ゆっくりとスミノフアイスをあけた。風が心地よかった。少し薄暗くなっていた空は、いつもより大きく感じた。
芝生の感触を楽しみながら、私の心は驚きに満ちていった。私は今、地球の上に寝そべっている!目の前の古い建物や、私や、友人や、ころがったスミノフアイスや、鉄柵や、さっきの親切なイギリス人や、そして東京にいる私の家や、家族や、なんもかんもみな、この巨大な球体の上にある。そしてゆっくりと動いている。なんてこった!

さっきスミノフアイスを飲んで、あのときの感じを思いだした。酔いがさめないうちに、この気分を書きとめておきたい。手の中からあの感覚が零れ落ちる前に仕上げてしまおう。スミノフアイスよ、あんがとね。また買うよ。
…広告みたいな締めでイヤだなこれ。