今更だが、スキージャンプのルールは日本に不利か

オリンピック終わっちゃってだいぶ経つけど、今更こんなエントリである。くそー。タイミング逃したなぁ。

日本のジャンプがイジメられてるって、本当?

今回はジャンプの話なので、ノルディック競技で、ジャンプの重要性が低くなった話は置いておいて。

長野オリンピックが終わってすぐに、スキー板の長さについてのルールが変わりました。長野までは身長プラス80センチというルールだったのですが、改定後は身長の146%というものに変わったのです。
 これによって、身長の高い選手はより長いスキー板を使えるようになり、板が長ければ長いほど、風の抵抗を受けられるので滞空時間が長くなって、遠くに飛べるチャンスが増えます。もちろん、身長の低い日本人選手には不利な改定です。

この改定が日本に不利なのは間違いない。けど、大事なのは、その改定が理にかなっているかじゃないの?
もちろん、どんな競技にも、有利な体型と不利な体型がある。しかしながら、「アンフェアなルールにされた!」と抗議するのであれば、少なくとも改定後のルールが、著しく欧米人に有利であることを示さなきゃならないんじゃないか。

ってことで、細かいルールを調べてみた。



BMIルール

BMI」は体格指数。よく、健康診断なんかで出てくるアレだ。その求め方は、「体重」を「身長」の2乗で割ることによって求められる。
この「BMI」を元に、「スキー板の長さ」を「身長」の何倍にしてよいかが決定される。日本の原田が失格になったのは、「体重」が予想より低かったことで「BMI」が落ち、その倍率が低くなったことに原因があった。

さて、次に、ジャンプ競技において、より遠くに飛べる方法を考えてみよう。
スキーで滑り降りるところでは、滑る技術が同じなら、そのスピードに差は出ない*1ガリレオピサの斜塔での実験*2と同じ理屈だ。
問題は飛び出した後。基本的にアレは落下運動なわけだが、空気抵抗を受ければ受けるほど、着地するまでの時間を伸ばすことができる。そしてその時間が長いほど、遠くへ飛べるわけだ。よって、空気抵抗を受けることのできる面積がでかいほど、良いわけである。


さて、このような仕組みのジャンプという競技において、よりフェアなルールというのは何か。それは、「身長」に左右されず、飛行形のよさによって決まるものではないかと思う。


ここから高校物理。
選手に対し「下方向へ働く力」はどうなっているかというと、まず、「体重」に「重力加速度」をかけたのが「引力」。ここから、「空気抵抗」を引いたものだ。これが「下方向へ働く力」。
「体重」を「下方向へ働く力」で割って、選手が落ちていく加速度が求められる。この値が、「身長」に依存していなければ良い。なお、「BMI」は各国に有利不利がないものと仮定する。
選手の「体重」は、その定義から、「BMI」に「身長」の2乗をかけたものであるから、「下方向へ働く力」も「身長」の2乗が因数になっていれば、分子分母、両方に、「身長」の2乗が存在することとなり、帳消しにできる。これで加速度は、「身長」に依存しなくなる。これが目指す方向だ。


まず分母の第一項、「引力」は、「体重」×「重力加速度」=「BMI」×「身長」の2乗×「重力加速度」、となるからOK。
問題は分母の第二項、「空気抵抗」である。ここが「身長」の2乗を因数として持っていれば良い。

「空気抵抗」自体は、速度に比例するのだが、今回は別にどれくらい飛ぶかを計算するわけじゃないので、そのことは無視。大事なことは、「体の正面の面積」&「スキー板の面積」が、「空気抵抗」の因数になっていることだ。そして「身長」の2乗という因数があるとすれば、ここに隠れてなければならない。


「体の正面の面積」は、まぁ普通に考えれば「身長」の2乗に比例しそうだが、実際は違うようだ。例えば、これを見てみて。
「統計学関連なんでもあり」の過去ログ---001

男子スポーツ選手の身長から体重を予測するために,指数モデル Y = a・X^b を Marquardt 法により非線形最小二乗法によるあてはめてみた結果です。

「体重」が、「身長」の3乗に比例するかどうかを検討したデータ。結果として、2乗ちょっと〜1乗ちょっとあたりという結果。同じスポーツ選手なので、これを使う。「体重」は体積と比例するのだから、「体の正面の面積」は、「身長」の1乗ちょっとと比例していると考えるのが妥当だろう。
そうなると、「体の正面の面積」&「スキー板の面積」が「身長」の2乗に比例するには、「体の正面の面積」が「身長」の1乗ちょっととしか比例していないのだから、「スキー板の面積」は、「身長」の2乗以上に比例しなければならないのである(かなり乱暴だが)。

現行のルールは「身長」の数倍をスキー板の長さとしている。また、スキー板の幅が、スキー板の長さに比例しているとは思えない。よって、せいぜい、「スキー板の面積」は「身長」の1乗ちょっととしか比例していない。
つまり、いまだに小さい体のほうが有利であるということだ。そして、以前のルール(身長+80cm)は著しく、小さい体に有利なルールであったといえるだろう。
もちろん、改定に「欧米人が有利になるように」って意図があった可能性はある。しかしアンフェアだと抗議できるようなものじゃないかなぁ。


まぁ、何はともあれ、日本のジャンプの選手にはがんばって欲しいもんだ。…って本当にこれ、オリンピック中に書くべきだったなぁ。

*1:正確には、空気抵抗、坂との摩擦があるが、これは「身長」が低く、「体重」の軽い日本選手に有利

*2:伝説でしかないらしいけど