昔見た夢

そのホテルには受付があって、魚の顔をした男が立っていた。

僕は、とびきりかわいい僕の彼女(顔は輝いていてよく見えない)に、ちょっとここでまってて、と身振りで伝えてから、魚の男へのところへと向かった。

「すいません、部屋を取りたいんですけど?」
「失礼ですが、お客様、セックスは初めてですね?」

僕はあわてる。彼女に聞えたらどうするのだ。声を潜めて、魚の男へ尋ねる。「どうして分かったんですか?」
「私もこの仕事は長いもので。それでわかるのです。実は、初めてのお客様には、当ホテルからサービスがありまして。」
「ほう」
「特別に素晴らしいお部屋をご用意いたします。2時間です。」
そういって、魚の男は僕に金色のぴかぴかのキーをくれた。702号室。

僕は彼女のもとに戻って、いい部屋が取れたよという。彼女は無言だが、喜んでいるのが分かった。彼女と腕を絡めてエレベーターに乗り込む。
気がつくと、6階に着いていた。どうやら、6階から先は階段で向かうしかないらしい。

エレベーターホールにある6階の地図を確認して、階段へ向かう。しかし、どこをどういっても階段にたどり着かない。宴会場を通り、サーカスの舞台裏を通り、ありとあらゆる人に階段の場所を聞く。でも誰も階段の場所を知らない。

だんだん焦ってくる。魚の男は2時間と言った。時計を確認する。もうあれから1時間近く経っている。
彼女の顔をうかがう。相変わらず彼女の顔は輝いていて、表情が読めない。きっと、怒っているだろう。ホテルの部屋にも連れて行けないなんて、何て情けない男だと思っているんじゃなかろうか。いや、彼女はステキな女性だから、こんなときでも怒らずニコニコしているんじゃないか。

そうこうするうちに、ついに階段を見つける。7階へ。
階段近くの地図で702号室の場所を確認する。大きな部屋だ。7階のほとんどが702号室になっている。魚の男が言ったように、きっと素晴らしい部屋なのだろう。時計を確認する。あと30分!


702号室はすぐに見つかった。鍵を差し込み扉を開ける。そこは大学の見慣れた大教室だった。

大勢の学生が、なにやらプリントを持って教壇に向かい並んでいる。訳が分からない。あわてて、近くの机でプリントに書き込みをしている男に尋ねる。
「これは?一体何?」
男が言う。
「いや、セックスをするためには、その資格があるかどうか、数学、英語、国語の3教科のテストを受けなくてはいけないんです。全部解けたら、教壇で先生に採点してもらってください。70点で合格です。」

プリントを貰ってくる。うん。それほど難しい問題じゃない。高校生くらいの問題だ。そりゃそうだろう。難しすぎたら誰もセックスできない。でも問題は時間だ。時計を見る。
あと、10分。
終わるわけがなかった。

彼女を見る。相変わらず、彼女の顔は輝いていて見えない。
僕はため息をついた。